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「ジオパーク」×「地方創生」

  • 北海道大学
  • 地方創生
  1. 「ジオパーク」とは
  2. さて、地方創生との関係とは?
  3. 全国組織と「ジオパーク議連」の存在
  4. 最後に

「ジオパーク」とは

「ジオパーク」と「地方創生」を並べて書くと、違和感がある方もいると思いますが、実は意外に密接な関係があります。

ジオパーク(GP)は「地球・大地(=ジオ)」と「公園(=パーク)」を合わせたネーミングです。世界GPは、UNESCOによって「国際的な地質学的重要性を有するサイトや景観が、保護・教育・研究・持続可能な開発が一体となった概念によって管理された、単一の、統合された地理的領域」と規定されています。筆者の独断でこれを意訳しますと、「地質学・地理学・地球科学的な観点から、世界的に見ても貴重な場所(露頭や地形、被災施設など。時には植物や人工物も含まれる。)やそれを含む景観地が所在するひとまとまりの地域」であって、これが「きちんと保全、研究、管理され」、「保全に問題のない範囲で、教育やサスティナブルな観光利用に活用されている」地域、となります。

 世界レベルの「ユネスコ世界ジオパーク」が国内10か所、わが国を代表する「日本ジオパーク」が36か所。2009年にわが国最初の世界GPとして認定されたのが洞爺湖有珠山、糸魚川、島原半島の3つ。世界GPはこの他に、山陰海岸(2010年)、室戸(2011年)、隠岐(2013年)、阿蘇(2014年)、アポイ岳(2015年)、伊豆半島(2018年)、白山手取川(2023年)があります(()内は世界GP認定年)。それぞれ稀有なジオ資源があるとともに、風光明媚な土地柄で、国立・国定公園との重複も目立ち、サスティナブル・ツーリズムを進めるのに良い土地柄です。

 

出典:香美町立ジオパークと海の文化館HP https://geo-umibun.jp/geoparktoha/

 

さて、地方創生との関係とは?

 GPは、NHKの「ブラタモリ」(タモリさんが大好きな地形地質を訪ね歩き探求する番組です。)で度々紹介されるなど、国内的にも注目度は上がってきていると思いますが、そもそもGPは世界遺産と同様にUNESCOが提供する世界的な枠組みで、インバウンドに訴える観光コンテンツなのです。それもあって、火山等のジオ資源を持つ市町村からは観光ブランディングのツールとして期待されるとともに、地方創生の大方針である「デジタル田園都市国家構想総合戦略」には次のような記載があります。

「国立公園や棚田地域、ジオパーク、ユネスコエコパーク等において自然観光資源を活用した地域活性化を推進するため、(中略)魅力あるプログラムの開発、ルール作り、ガイド等の人材育成などのエコツーリズム(ジオツーリズムを含む。)の活動を支援する。」

 とても小さな記載ですが、閣議決定です。これで内閣府にはジオの担当が置かれ、デジタル田園都市国家構想推進交付金の対象にもなります。この交付金は、令和6年度と5年度の補正で総額1735億円/年にもなる大型の交付金ですが、実際に全国の多くの自治体がこの交付金の一部を使い、ソフト・ハードの両面でGP活動を支えています。

また、この他に、総務省の過疎地域持続的発展支援交付金や過疎対策事業債、文科省のユネスコ未来共創プラットフォーム事業や歴史活き活き!史跡等総合活用整備事業等、観光庁の地域の魅力を後世に繋ぐサステナブルツーリズムコンテンツ高度化事業等、環境省のジオパークと連携した地形・地質の保全・活用推進事業等といった各府省庁の政策メニューの活用が可能となっているようです。詳しくは、令和5年度ジオパーク関連施策活用の手引き(内閣府地方創生推進室)をご覧下さい。

出典:令和5年度ジオパーク関連施策活用の手引き(内閣府地方創生推進室)(https://geopark.jp/jgn/news/2024/20240311.pdf

全国組織と「ジオパーク議連」の存在

 GPの全国組織には、関係市町村の連合体「日本ジオパークネットワーク」(JGN)があり、世界GP、日本GPの関連自治体に加え、GPを目指す自治体も準加盟が認められています。またJGNは世界ジオパークネットワーク協会(GGN)を通じて世界とつながっています。さらに、日本ジオパーク委員会が設けられ、地形や地質に関する学識経験者等が参画してJGNの科学的側面を支えています。

特筆すべきこととして、「ジオパークによる地域活性化推進議員連盟」の存在が挙げられます。与党(自民・公明)の国会議員、約90名による議員連盟で、会長は石破茂衆議院議員(執筆当時)です。このような議連の存在は他に例がないと思います。年に一回、総会が開催され、国会議員のみならず関係市町村や関係府省庁などの関係者が一堂に会する良い機会となっています。これもあって、内閣府、文科省や環境省をはじめ、各府省も各地のGPに何らかの協力をしている状況になっています。

最後に

 「糸魚川静岡構造線」や「フォッサマグナ」は教科書には出ていても、昔はこれらを観光資源とはみなしませんでした。しかし今、糸魚川市(新潟県)はGPを活用してこれらを観光資源化するとともに観光ブランディングにも成功しています。有珠山や雲仙等の火山の噴火や被災遺構も同様で、災害のネガティブなイメージを払拭し、GPを活用してポジティブな観光資源「ジオの恵み」に転化させています。

2009年のGP初認定から15年以上が過ぎ、知名度もあがりつつ制度も整備されてきていて、成功例も失敗例もありますが、従来は生かされなかった自然観光資源をうまく生かし、ゆったり滞在しながら地域を歩くようなサスティナブルな観光の振興につなげる方策の一つとしても、定着してきていると思います。

また、GPとして世界的に認められるということが、地域の住民の皆さんの地域愛やプライドを育て、やがては地域の人口保全や人口回帰につながっていくという効果も期待できると思いますし、新たな移住や起業等の誘発に寄与していくこともあるでしょう。GPだというだけで、自然との共生にも取り組む先進的な街(地域)というブランドイメージを手にすることにもなると思います。

このように、GPの仕組みの活用が地方創生につながる自治体はこれからもたくさんあるはずですので、ご検討してみてはいかがでしょうか。

 

【参考HP等】

日本ジオパークネットワーク(JGN) https://geopark.jp/jgn/about.html

令和5年度ジオパーク関連施策活用の手引き(内閣府地方創生推進室)https://geopark.jp/jgn/news/2024/20240311.pdf

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執筆者

中山 隆治

北海道大学 総長補佐・公共政策大学院教授 

1991年に環境庁に入庁し、白山国立公園、首都機能移転先候補地検討、環境アセス、サロベツ湿原再生、有珠山噴火復興、小笠原諸島世界遺産登録、知床世界遺産管理、山小屋トイレ整備、東日本大震災からの復興等を担当。生物多様性センター長、内閣参事官(地方創生担当)、東北及び中部地方環境事務所長等を経て、2023年から現職。実務家教員として気候変動対策等の環境政策、国立公園や世界遺産の保護管理、自然共生型観光等を研究・教育。長年、有珠山、糸魚川、浅間、立山、三陸など各地で多くのGPにかかわり、内閣参事官としてGPに関する関係各府省とりまとめも担当した。酪農学園大学客員教授、環境省大臣官房付。